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2022年10月3日

Horseがタブの代わりにTrailsを使う理由

PascalとEleanorがHorseを作ってTrailsを発明し、そのアイデアがADHDの人に特によく合う理由を後になってようやく知った、本当の話です。

4,417字・文:Pascal Pixel

タブはページを開いたままにしてくれます。でも、ページ同士のつながりは捨ててしまいます。

リンクをクリックして、さらに別のリンクをたどり、邪魔が入って、戻ってくると、そこには小さな長方形が30個。どの疑問がどの答えにつながったのか、記録はどこにも残っていません。ページは生き残りました。やりかけの仕事は生き残れませんでした。

Horseは正反対のやり方をとります。リンクをクリックすると、新しいページは元のページのすぐ下に枝分かれして現れます。さらにリンクをたどれば、その枝が伸びていきます。たどった道のりはすべてサイドバーに見えたまま。寄り道しても、席を外しても、いつでも戻ってこられます。

この道のりを、トレイルと呼んでいます。

どうやってそこへたどり着いたかは、コンピュータが覚えています。コンピュータは覚えるのが大好きです。ついに、ぴったりの仕事を任せてあげられました。

すべては、ある笑い声から始まった

何年も前、Webscapeという、Chromeの拡張機能を売っている人に出会いました。マーケティングを手伝ってほしいと言われたので、僕は唯一役に立つ質問をくり返しぶつけました。「それは、どんな問題を解決するんですか?」

彼の答えは、いつも同じでした。

「タブは壊れているんです」

じゃあ、どうしてタブを直さないのかと聞きました。

彼は笑いました。「僕がGoogleだとでも?」

その笑い声が、頭から離れなくなりました。

誰かが「このデザインは壊れている」と言うとき、僕には「物理法則により、この領域への立ち入りは禁じられています」とは聞こえません。「このデザインの問題は、まだ誰も解いていない」と聞こえます。壊れているというのは、まだ解かれていないということ。解けないということではありません。道具を持って、乗り込んでいいんです。

数日後、僕はタブをどう改善するかを考えるのをやめて、その下で本当に壊れているのは何なのかを問い始めました。

答えは「消えてしまうこと」でした。

ページが消え、道のりも消えた

普通のWebナビゲーションは「置き換え」を前提に作られています。あるページを見ている。リンクをクリックする。次のページがそれと入れ替わる。戻るボタンを押せば前のページは取り戻せますし、履歴を見ればどこを通ってきたかも一覧できます。でも、ページ同士のつながりは、ほとんどあなたの記憶の中にしかありません。

タブを使えば、いくつものページを同時に残しておけます。その点では、タブは実に優秀です。でも、あるページがなぜ別のページを生んだのか、その理由までは残してくれません。

ブラウジングが本物の仕事に変わった瞬間、これが高くつきます。

まずはホテルを調べる。ホテルから周辺エリアのガイドへ。ガイドから電車の時刻表へ。そこにメッセージが届いて中断。戻ってくると、ブラウザには同じような長方形が3つ並んでいて、「さて、何をしようとしていたか覚えていますか?」と聞いてきます。

あるいは、歯医者から始めて、保険のポータルサイトに行き当たり、証券番号を調べて、メールを開く。すると、「予約を取る」ためのタブが、そっくり同じファビコンが整然と並ぶ隊列の中に消えてしまっています。

そのタブは、仕事そのものでした。そして、その仕事は終わりませんでした。

僕が欲しかったのは、長方形を整理するための、もっと賢い仕組みではありません。そもそもブラウザに、つながりを壊すのをやめてほしかったんです。

そこで、ルールをひっくり返しました。

そもそも、なぜページから離れる必要があるのか?

元のページは残しておく。新しいページはその隣に開く。そして、つながりを描く。

壮大なページ祭り

ひっくり返したとたん、第二の問題が生まれます。今度は、そこらじゅうページだらけです。

ものすごい数のページです!

まさにページの大祭典。開催を許可した当局はどこにも見当たらず、Wikipediaからは数千人のお客さんが押し寄せてきます。

幸い、こちらはずっと小さな問題です。今のコンピュータなら、たくさんのページを抱えておけます。ページ同士の関係は、階層で見せられます。道のりは縦長のサイドバーに置く。新しいページは、それを開いたページの下に入れ子にする。いらない枝は折りたたむ。

注意がよそへ移ったというだけで、何かが消える必要はありません。

それがTrails®でした。

サイドバーに枝分かれしたトレイルを表示しているHorse
サイドバーに枝分かれしたトレイルを表示しているHorse

設計したとき、僕はブラウザの歴史についてほとんど何も知りませんでした。あとで見つけた昔のインターフェースは興味深いものでしたが、発明の物語とは関係ありません。本当の道のりはこうです。タブは壊れていると嘆く男がひとり。それを笑う男がひとり。そして、その笑いを製品の要件として受け入れることを、僕が断固として拒んだこと。

Trails®は、後片付けだけでなく、ブラウジングそのものを整理する

フォルダは、ページをどこに入れるか決めてくれと言います。タブグループは、17個のページがいつの間にかプロジェクトになっていることに気づいて、並べ直してくれと言います。ブックマークは、このページに永住権を与えるべきかどうかを問いかけます。

でもTrails®は、作業中にそんな質問をひとつもしません。

リンクをクリックする。枝が伸びる。つながりが実際に生まれたから、そのつながりが画面に現れるのです。

枝の名前を変えたり、移動したり、折りたたんだり、削除したりするのは、あとからでもできます。大事なのは、ブラウジングしただけで、戻ってくるのに十分な構造がもうできあがっていることです。作業を続けるために作業を整理しようとして、作業を中断する必要はありません。

これこそ、僕が求めていたテクノロジーとの取引です。人間は意味を追いかける。コンピュータは系譜を運ぶ。

「もっと自分を律しなさい」ではありません。「タブを減らしなさい」でもありません。立派な精神力を証明するまでWebサイトをブロックするタイマーでもありません。ブラウザは、もともと手にしていた文脈をそのまま持ち続けて、戻ってきたときに見せればいいだけです。

なんて時代に生きているんでしょう。機械がクリックを覚えていてくれるなんて!

アイデアを中心にブラウザを作る

Horseを一緒に作ったPascal PixelとEleanor McKeown
Horseを一緒に作ったPascal PixelとEleanor McKeown

Eleanorと僕は、自分たちのためにHorseを作りました。自分たちでは最高だと思っていました。初期のユーザーのほとんどは、そう思いませんでした。

ここは大事なところです。これは、プロダクトマネージャーの聖歌隊がひとつの音を長々と響かせるなか、完璧な製品ビジョンが天から降りてきた、という話ではありません。Trails®は強力なアイデアでしたが、そのまわりには、ブラウザがこなさなければならないほかのあらゆる仕事がありました。Webサイトを表示する。ダウンロードを扱う。パスワードを覚える。安全にアップデートする。さまざまなOSで動く。そして、誰かの1日を預けられるくらい信頼できると感じてもらう。

このアイデアのまわりに、ブラウザを組み上げ続けました。初期のユーザーは、複数ウィンドウやサードパーティの拡張機能が追いつくまで、それなしで使ってくれました。ソフトウェアを人間らしく感じさせる小さな振る舞いも、ひとつずつ直していきました。あるページを閉じたあと、どのページをアクティブにするか。バックグラウンドで開いた枝をどこに表示するか。サイドバーを開き直したとき、何を覚えておくべきか。

結果が自然に感じられるほど、その下には多くの判断が見えないまま埋まっています。それが良いインターフェースデザインです。状態管理の戦略に見とれたくてブラウザを開く人はいません。邪魔が入ったあとも、歯医者の予約がちゃんと生きていてほしいだけです。

後になってわかったこと

およそ2年にわたって対話を重ねるうちに、もうひとつのパターンが見過ごせなくなりました。使い続けてくれた人たちの中に、ADHDのある人が目立って多かったのです。

僕もそうでした。

僕は1996年に診断を受けていましたが、その診断と向き合うことも、ADHDが何を意味するのかを学ぶこともありませんでした。自分のことは、たまたまあちこちにやりかけのものをたくさん置きっぱなしにしてしまう、陽気でおしゃべりで楽しい人間だと思っていました。

そこで、その説明を探し始めました。

Horseを使い、勧めてもいる心理療法士のDanielが、このデザインを理解する手助けをしてくれました。Horseは、ブラウザひとつ分の実行機能の仕事を、記憶からインターフェースへと移しているのです。

この説明が、ほかのすべてを開く鍵になりました。同時に、僕自身がADHDについて抱いていた考え(気が散るものを減らす、もっとうまく計画する、自分に無理をさせる)が、誰もが何となく吸収しているポップサイエンス的な思い込みと同じだったこともわかりました。

これは、ADHDに詳しい創業者がADHDを治療しようと乗り出した物語ではありません。Horseは治療ではありません。Horseが変えるのは、ブラウザのある一つの条件です。普段なら消えてしまう文脈が、見えたまま残ること。

途中で呼ばれて席を外しても、記憶をたよりに仕事を丸ごと組み立て直さずに戻ってこられます。役に立つ脱線をたどっても、その脱線に意味を与えたページを犠牲にせずにすみます。枝をいったん置いておいても、つながりはそのまま残っていて、そこへ戻ってこられます。

Horseは、ブラウザが求める整理の負担の一部を、画面の上に出しておきます。仕事は、あなたのものです。でも、しなくていい記憶まで背負う必要はありません。

ブラウザは、好奇心を広げるためにある

インターネットは、人類がこれまでに作った中で最大の、奇妙な図書館です。実用的な答えはすべてそろっていて、とびきりの寄り道が数百万個あって、フェリーの甲板から洗濯機を修理できるほどのニッチな専門知識まで詰まっています。

その世界を、まわりのインターフェースに人が耐えられるくらいまで小さく縮めることが答えではありません。

もっと良いインターフェースを作ればいいのです。

好奇心は、思いきり枝を広げればいい。元の仕事は、見えたまま残しておけばいい。会議でも、食事でも、子どもの用事でも、電話でも、あるいは中世のスプーンについてのどうしても必要な調査でも、席を外したあと、灰の中から始め直すことなく戻ってこられればいいのです。

それこそ、Eleanorと僕が偶然作り上げ、ようやく説明できるようになったものです。

仕事には、帰り道ができる。好奇心は、その壮大な行動範囲を保ったまま。そして地図を運ぶのはコンピュータ。昇進したのがうれしくてたまらない様子で。

Horseを2週間無料で試してみてください。何か面白いものを追いかけて、ノートパソコンを閉じて、明日また戻ってきてください。トレイルは、そのままそこにあります。

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